月刊錦鯉97年1月号 連載・魚病ノートNo.9
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非寄生体性の鰓病


 錦鯉の鰓病は、カラムナリス菌(Flexibacter`columnaris)の感染によって起こる鰓腐れ病がよく知られている。また、ダクチロギルスやトリコジナ、頬腫れ病とも呼ぶ鰓ミクソボルスなどの寄生症も、一口に鰓病ということが多い。本章で紹介する「非寄生体性の鰓病(新しい鰓病)」とは、これら細菌や寄生虫によって引き起こされる鰓病とは別の、新しいタイプの鰓病として、新潟県内水面水産試験場が報告した病気である。

 非寄生体性の鰓病の発生原因は、現在のところ不明である。新潟県内水試によると、第一に考えられる原因としてウイルスがある。鰓の一番外側の表皮細胞は刺激によって傷を受けやすく、それがウイルスによって増え、鰓が完全にくっついてしまい、先端が白っぽく見える、というのが一つの見方である。

 もう一つは、細かい餌の粒や汚れの粒子などの池の中の微小な浮遊物が、常に鰓の外側に当たり、その刺激によって細胞が増えて寒天状のものができるのではないかという見方。以上、二つの原因が考えられるという。

【発生時期】
 この鰓病が発生するのは越冬に入る時期からで、冬のシーズンを通して見られる。最近では、越冬に入る早い時期から春先のかなり遅い時期まで、長いシーズンにわたって見られる傾向がある。
症状

 越冬池などで、最初に一部の鯉が池の隅に固まって動かなくなる。その魚を池から上げて、鰓蓋を開けて肉眼で観察すると、鰓の先に寒天状のものが付いて白く見え、鰓全体も腫れている。その他は外観的には全く異常が無い。また、顕微鏡による観察でも、寄生体や細菌のコロニーを確認できない。このような症状が、非寄生体性の鰓病の特徴的な症状であるという。

 主に当才鯉によく見られ、まれに二才魚、三才魚にも発生することがある。酸素欠乏や水質の悪化に対して弱く、痩せて弱った魚よりも、太った魚に多く見られ、毎日ポツリポツリと斃死が続き、放っておくと、かなりの斃死数になる。また、同じ水を循環している他の生け簀の鯉にも感染するという。

 病魚の鰓は写真で見るように、先端が腫れたように厚くなり、鰓弁が癒着している。瀕死の魚では、鰓の先端が寒天のようにべったりと白くなっている。さらに顕微鏡下で鰓弁を切り取って、鰓弁の癒着や先端部分の異常な増生を確認すれば、本病であることは確実である。


治療

 食塩と抗菌剤による薬浴が行われている。ただし、短期間の薬浴では効果がなく、十日から一カ月という長期間実行しないと、治癒は望めない。

①食塩とエルバーシュ……水1トン当たり食塩5~6㎏とエルバージュ10gを同時に混合薬浴。エルバージュは直射日光に当たると分解が早いので、薬浴中は池に覆いをする。

②食塩とテラマイシン……水1トン当たり食塩5~6㎏とテラマイシン50gを同時に混合薬浴。
 二通りとも水温を20℃前後に保ち、十~十四日間薬浴を行い、症状の回復が見られない場合はさらに延長する。
 薬浴中に飼育水が汚れてきた場合は、水を換えて、再度食塩水などを入れて薬浴を続ける。
 なお、テラマイシン等の抗生物質は、過量を用いると副作用があり、また耐性株(細菌が変異して薬剤が効かなくなる)の発生淘汰を生むとされている。抗生物質や抗菌剤の常用、過用はできるだけ避けるようにしたい。
 本病を含む各種鰓病は、発生時期や病状から正確な判断をして、それぞれの病気にあった治療を施す必要がある。したがって診断と治療は専門家や試験場などにアドバイスを受けるほうがよい。細菌性(カラムナリス病)と寄生虫による鰓病の特徴を以下に簡単に記述しておく。
 カラムナリス病(鰓腐れ病)は主に高い水温期に発生しやすく、加温しての越冬でも発生が見られる。鰓を見ると、鰓弁に黄白色の小さい付着物が見られる。同じカラムナリス菌による鰭腐れ病や、皮膚のカラムナリス病を併発している場合もある。200倍程度の顕微鏡で、カラムラリス菌の特徴的なコロニーを確認できる。治療にはオキソリン酸(パラザンD)などの抗菌剤を用いる。
 寄生虫による鰓の異常では、寄生を受けた魚が体を物にこすり付ける動作をする場合が多く、鰓からの粘液の異常分泌などが見られる。40~100倍の顕微鏡で観察すれば寄生体を確認することができる。治療には食塩、またはホルマリン、過マンガン酸カリウムなどが用いられる。


予防

 非寄生体性の鰓病は発生原因が不明であり、予防としては、水質、循環濾過設備、飼料などの飼育環境を万全に整える以外にない。��