月刊錦鯉96年8月号 連載・魚病ノートNo.4
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運動性エロモナス症(赤斑病、立鱗病)


 エロモナス菌は、淡水中であれば、世界中どこにでも普通に存在している細菌で、代表的なものとして、鞭毛を持ち運動するエロモナス・ハイドロフィラー(Aeromonas hydrophila)と、鞭毛が無く運動しない非定型エロモナス・サルモニシダ(A salmooicida)とが知られている。エロモナス・サルモニシダは比較的低水温を好むが、エロモナス・ハイドロフィラーは25~30℃の高水温でよく繁殖する。これらの細菌は通常は強い病原性を持たないが、感染を受ける魚体に外傷や体力の低下など、何らかの悪条件があると、感染し発病する。
 非定型エロモナス・サルモニシダが原因の病気としては、錦鯉の穴あき病や、サケ科魚類のせっそう病がある。一方、運動性のあるエロモナス・ハイドロフィラーによる病気として、錦鯉では、赤斑病と立鱗病とが知られていて、これらを運動性エロモナス症とも呼んでいる。
 ただし、立鱗病にはエロモナス菌の感染以外の原因によるものもあり、脂肪やデンプンの過食によって、肝臓、腎臓に脂肪が溜まり発病するという栄養障害説もある。

赤斑病
 赤斑病は、皮膚や鰭に皮下出血性の赤斑が見られるのが特徴。立鱗を伴うことが多く、食欲不振、時には眼球突出、腹部の膨満などの症状が現れる。
 赤斑病には、発病後1~2週間以内に斃死する急性のものと、症状が現れてから数週間を経て食欲がなくなり、動きが緩慢になってやがて死に至る慢性のものとがある。
 年間を通じて発生するが、特に秋から初冬、冬から初夏の水温の変化が激しい時期や、水質が悪化した時などに多く発生する。

【初期症状】
 体表、鰭などが粘液の分泌によって白くなり、しばらく後、皮膚、皮下に出血(赤斑)がみられる。

【重症魚】
 腹部の皮膚が赤く変色し、表皮が剥がれて出血し潰瘍となる。肛門も充血し赤く見える。

【自然治癒と二次感染】
 自然治癒する場合もある。しかし、晩秋に発病した場合には自然治癒は進まず、冬に入って患部に水生菌症(水カビ病)などの二次感染を誘発しやすく、斃死することが多い。

立鱗病
 鱗の基部の鱗のうに水様物が溜まることによって鱗が逆立ち、重症になると全身の鱗が松かさ状になることから松かさ病とも呼ばれる。体表各部に出血を伴うことが多く、食欲不振、腹部膨満、眼球突出などの赤斑病と共通する症状も見られる。末期症状のものを解剖すると、腸管が充血し、腹水が貯溜しているのがわかる。
 年間を通じて発生するが、低水温時、特に春に発生しやすい。散発的に発生することが多く、伝染性は低いが、水質が悪化した状態では多発することもある。全身が松かさ状態になった重症魚では治癒は期待できない。
 エロモナス菌の感染による場合は充血を伴うのが特徴で、内臓に脂肪が溜まるなどの生理障害による場合は、充血がなく全身の鱗が立ち、体は透明感が強くなる。

治療
 前述のように、運動性エロモナス菌の感染が原因以外の立鱗病もあるが、ここでは運動性エロモナス菌感染症に対しての治療法を解説する。治療は、寒冷期には水温を徐々に22℃程度に上げてから行う。

【経口投与】
 まだ食欲があるようなら経口投与による治療を行う。
【薬浴】
 細菌感染症の治療には抗菌剤、及び抗生物質の使用が中心になる。中でも、オキソリン酸を主要成分とする水産用パラザンDは、太陽光線に分解されにくく、池などに使用する場合に特に優れている。パラザンDと食塩の併用は、副作用もなく、細菌感染症に最も有効な用法といわれる。
【その他の治療法】
 抗生物質や抗菌剤を腹腔内に注射する治療法もあるが、正確に腹腔内に薬液を注入するのは難しく、専門家以外は試みないほうがよい。

予防
 エロモナス菌は、淡水中に普通に存在する常在菌で、通常は強い病原性は持たず、感染を受ける魚体側に何らかの原因がある場合に発病すると考えられる。
 水質の急変、悪化やその他飼育環境や給餌等が関与して、鯉の体力が低下した時に、細菌の感染を受け発病すると考えられるので、常に飼育環境を整え、水質、水温等の急変を避けるようにする。発生が懸念される場合は、サルファ剤(ダイメトンなど)を餌に混ぜて、一週間程与える。