月刊錦鯉96年6月号 連載・魚病ノートNo.2
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エピスチリス症(ツリガネムシ症)


 エピスチリス症は、最初に鯉の体表や鰭に米粒のような白点が生じ、次第に穴あき病のような症状になって、著しく観賞価値を損なう病気である。
 原生動物のエピスチリス(Epistylis)の一種である有柄繊毛虫の着生が原因だが、エピスチリスそのものは魚体から栄養を吸収することはなく、単に魚体に着生の場を提供してもらい、池水のバクテリアを摂取しているので、正確な意味では「寄生虫」ではない。しかし、エピスチリスの着性が引き金となって、細菌の二次感染を招きやすく、潰瘍を起こし鱗が脱落するなど、被害は大きくなるので、初期のうちに発見して治療してしまうようにしたい。

【初期は水カビ病に似る】
 エピスチリスの虫体は、枝分かれした柄の先についた逆吊鐘状をしていて、その形状からツリガネムシとも呼ばれる。収縮すると球状に近くなり、先端の繊毛によって水中のバクテリア類を捕食して生活している。
 この病気の最初に見られる米粒のような白点はエピスチリスの群体で、肉眼では水カビ病と間違うこともある。水カビ病は白い綿状の菌糸が指で摘めるほど長いが、エピスチリス症ではビロード程度に短い毛足であり、肉眼でも識別は可能だが、40倍程度の顕微鏡があれば、正確に見分けることができる。
【発生時期】
 水温12℃以上で発生し、20℃以上になると多発する。発生時期は春から秋で被害は全年齢魚に及ぶ。

症状
【初期症状】
 体表、特に体側の側線付近の鱗に米粒大の白点が一~二カ所生じ、次第に拡大、転移(患部が他の部位に移る)する。白点は水から上げると白いご飯粒状のものは見えにくくなり、穴あき病の前駆症状のような潰瘍に見える。
【中期~末期】
 初期の白点は次第に拡大し、皮膚は充血して発赤する。症状が進行すると、白点部の鱗が部分的に立鱗し、患部周囲の充血、鱗の欠損(虫食い状態となって欠ける)、脱落が起きる。さらに、表皮が潰瘍を起こして虫食い状態となり、池中の汚泥が付着して泥かぶり病(水カビ病)のようになり、体表を擦り付けるような動作をする。末期症状に至ると水面近くを浮遊し、食欲が不振となる。

治療
【初期の治療】
 白粒が見えるだけで潰瘍になっていない初期段階で、エピスチリスを駆除するためには、次のような治療を行う。
【潰瘍状態になった時の治療】
 症状が進み、潰瘍状態になった時は、前記①~⑤の治療によってエピスチリスの虫体が完全に落ちた後、細菌類などの二次感染によって起きていると考えられる潰瘍症状を治療するために、以下の処置を行う。
予防
 エピスチリスは水温12℃以上で繁殖し、30℃以上の高水温にも耐えて死亡しない。12℃以下の水温になれば魚体から離れてシストを作るため白点症状はなくなる。しかし、低水温時でも患部が収縮するだけで完治はせず、水温が上がり繁殖に適した環境になると再発する可能性が高いという。一度発生した池は、予防の目的で消毒を行ってから使用することが望ましい。
 エピスチリスは新しい鯉を入れる時、魚体や水とともに池に侵入するので、放養前の駆除、薬浴が効果的である。定期的な予防法として、水1トン当たり、マラカイトグリーン0・2gを溶解、薬浴を月一回実施するが、水温30℃以上ではマラカイトグリーンの毒性が強くなるので、中止しなければならない。